雲のむこう、約束の場所
監督: 新海誠, 製作・配給: コミックス・ウェーブ
まあまあ(10点) 2025年6月12日 ひっちぃ
大戦後に北海道まで共産軍に占領された架空の日本で、中学生の浩紀と拓也は遺棄された飛行機をみんなに内緒で修理して、北海道の真ん中に建てられた謎の塔まで飛んでいこうとする。好きだったクラスメイトの佐由理にその計画を話した浩紀は、彼女もそこへ連れて行くと約束する。アニメ映画「君の名は」でブレイクした新海誠監督の長編アニメーション処女作。
「君の名は」公開記念に深夜この作品が放送されていたので録画し、8年たってようやく見てみた。うーん。一言で言えば「SF好きによるクソセカイ系」だった。言いすぎかw
まず導入部の三十分、東北地方の北端にある津軽海峡近くの田舎町で、中学生の男の子二人と女の子一人の青春が描かれる。そこから物語は急に三年後に飛ぶ。なにがあったのか言っちゃうとネタバレになりそうなので言わないことにする。
なんかよくわからないんだけど、突然平行宇宙について語られだす。北海道の真ん中に建てられた塔は、そういう物理学の研究が進んでいる共産国家群が建てた施設で、なにやら世界を裏返そうとしている(?)らしい。で、それを防ぐ鍵となるのが佐由理という少女なのだった。
要約しちゃうとダメだなこの作品は。
この作品はまずパラレル日本の田舎町とか建物なんかの昭和や平成っぽい風景を楽しむべきなんだと思う。津軽海峡を挟んで冷戦が続いていて、アメリカの強い影響下にある日本でアメリカの情報機関の人間が研究を視察しにきたり、日本の工作員が向こうの内通者に接触しようとして小競り合いになったりと、雰囲気のあるシチュエーションが描かれる。こうしてどこか違う日本を描いてみせることがこのあとの描写へつながる。
主人公やヒロインの見る夢の描写が多い。なにか超現実的なことが起きたと思ったら夢だったみたいな。この夢というのは平行世界での出来事なんだろうか。ヒロインが現実を俯瞰していたり、あるいは主人公が昔のことを思い出しているだけ(?)だったり、あとでそれが予知夢だったことに気づいたりもする。夢と現実の境目が曖昧に描かれる。そしてついには交錯(?)する。「君の名は」で見たシーンにちょっと似ているなと思った。二人の世界があるとき接点を持つみたいなのは新海誠のモチーフの一つなんだろうか。
平行世界は宇宙が見る夢のようだと研究者が言っている。宇宙が夢を見るってどういうこと?まあそう言っている教授は平行世界のことを自分では知覚していないみたいなんだけど。
中学生がジェットエンジンをいじったり、制御用のプログラムを書いたり、高校生なのに研究機関にスカウト(?)されて働いたり、よくわからない方向に進んだ科学技術の研究に関わったりと、なんだかちょっと新世紀エヴァンゲリオンから流行った若者が能力を発揮する感じが匂ってくる。
ヒロインの描写がなんかいまいち足りてない感じがした。その他大勢の女子の描写が希薄だからなんじゃないかと思う。主人公がヒロインのことを好きだというのも、そういう設定らしいので受け入れようという気持ちで見ざるを得なかった。その後の「雲のむこう、約束の場所」についても。
まあたぶんこの先新海誠監督がどれだけビッグになっても、ゴールデンタイムにこの映画が放映されることはないと思う。…と思ってWikipediaを見てみたら19時台に関東の複数のローカル局で普通に放映されていたw
好意的にとらえれば、この作品は一つの虚構を夢と現実の境界が曖昧な描写で楽しむべきものなんだと思う。ただ、それができない人にとってみれば最初に言ったように独りよがりな「SF好きによるクソセカイ系」にしか過ぎなくなってしまう。
正直自分はこの作品を好きになれなかったし、特に最後なんてどう解釈しようとしても意味不明あるいはなにかにこじつけることしかできないと思った。処女作品(長編として)にはその作家の多くが出ると言われているけど、売れ線を模倣したんだろうなという以外に自分には特に見つけることができなかった。
映像美について触れると、金属の表面を流れる点光源の描写が目を引いた。ちょっとわざとらしいけど美しいと思った。
あの飛行機のデザインはないなと思った。昭和や平成っぽい中であれだけ異質で浮いているのは、少年たちの特別感を演出しているんだろうなとは思ったけど。
キャラクターデザインは昭和っぽい古さを出していたけどあまり魅力的に感じなかった。舞台の描写は昭和の人間としてもそれほど懐かしさを感じたりもしなかった。現実よりもアニメの中の古さの表現って感じがした。もっとディテールがすごかったら何か感じたかも。廃線の駅の廃墟は、自分的にはもっとコンクリートっぽかったら懐かしく思えたかも。自分が地方の人間じゃないせいかもしれない。
[参考] https://www.cwfilms.jp/ kumonomukou/ top.html
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